2020年11月25日水曜日

似て非なる物

先日初めて知ったが、特殊伐採って、ツリークライミングやツリーイングの応用らしい。
北海道でもツリーイングの技術を使った特殊伐採屋が居るようだ。
遊びの技術を使って、仕事を遊びがてらやられているのかもしれない。

まあ一般にはそういう伝え方が判りやすいかもしれないが、そうやってナーナーにやってるからいつまで経っても、ツリーワークは一般的じゃ無いんじゃないか?
まあその方がイイけど。
特殊伐採じゃないツリーワークは全く逆の考え方でして、元々高所樹上作業の仕事があり(日本では空師って言われたりしますが、本筋それとは別だと思います)その高所樹上作業の考え方がアーボリカルチャーとして存在し、アーボリカルチャーの中のほんの一部の誰が観ても問題がない危険の少ない木に皆で登って遊ぼうよ!っていうのが、ツリーイングだったりツリークライミングだったりする。

また逆の発想として、最も危険の少ない遊びのツリーイングは、条件を厳しく見積もる必要がある。しかし自然界には全ての安全は存在しないから、万が一の事故も想定内で、当然インストラクターが救助に向う技術も習得する必要がある。
一方高所樹上作業は、目的が樹上での伐採だし、伐採する必要があるという事は、人間や環境に適合しない木が対象となり、どんなに危険な木にでも登る必要がある技術だ。

全然違う。

木に登れる登り方を教わるだけで樹上作業なんて出来ネェよ。
レスキュー前提の遊びのインストラクターが、直ちに樹上作業ができるとも思わないし、
危険な木に登る技術を使って遊ぶのでは、一般アクティビティとして成立しない。
完全に似て非なる物だ。

何か一般にはロープを使って登るんだから、ロッククライミングと使いと思われたりもするけど、これも違う。
ロッククライミングは基本はロープも使わず岩を登るスポーツで、万が一落ちる事も想定しているため、ビヨ〜ンって伸びて命を救ってもらう為のロープだ。いわゆる命綱だ。
ロッククライミングで使うロープはダイナミックロープだから伸び率が20〜30%程度、落下のエネルギーをロープで吸収してくれる。
樹上作業などで使うロープは、種類的にはスタティック系のロープと言って、伸び率が2〜6%の作業索だ。落ちる事を前提としていない。方向としては海保とかが使うロープ。ソリャそうだヘリコプターから下降して要救護者を救出するロープがビヨンビヨン伸びたら作業にならないもんね。

見た目は一緒のロープのように見えるけど、目的が全然違うんで、全然別もの。
例えば、消毒に使うアルコールと、酔っぱらうために飲むアルコールの違いほどある。

ツリーワークっていうか高所樹上作業は、特殊伐採や空師とも全部違うと思う。

特殊伐採という言葉を調べていると最も信憑性の高いのが、
日本のエネルギーインフラとして全国を網羅している電線。その電線を保守するチームが電力系の企業にあり、明治中期から木材で出来ている電柱に登って整備する人が、邪魔な木の枝を切っていた。そしてそういう人たちにも手に負えない対象や、高圧鉄塔にかかる大きな伐採作業を担うセクションが「特殊伐採」だ。
だから「特殊伐採」電力屋の言葉で、林業屋から出てきた言葉じゃない。
やっている行為は木を切る事でも元々電力屋の仕事だった。
そういう電力屋が、我々の仕事は林業じゃない、木こりの仕事じゃないよ。ってことから本人達のプライドなのか?「特殊伐採」と呼ぶようになった経緯がある。
林業屋との違いを見せつけるために、電力屋が作り出した言葉だ。

空師とも違う。空師はもっと昔、史実として残っているだけでも江戸時代から有る。もちろんチェンソーなんてないから、麻ひもを身体に巻き付けハシゴで登って斧で木を伐っていた。これは天然繊維で伸びるから、ダイナミックロープに近いと思う。そして考え方も職人というか命がけの仕事をする事に生き甲斐を感じるスポーツの発想に近いと思う。
そして扱い的にも、木に登る職業は(私はそう思わないが)木に登る事くらいしか出来ないような取り柄の無い人が行う荒行で、士農工商以外の、それ以外の、いわゆる山師っていうか、職業に貴賤は無いと思うし私はそう思っていないが、人に有らずの賎しい職業だったらしい。
詳しくは会って話した事無いし、史実として資料で見るしかないが、どうやら本筋の空師はもう随分前に淘汰されたようだ。
もちろんその頃は、木を材料としてや燃料として使うために、人里近くは尽く伐採され故に現在の自然にみえる森でもとんでもない山の中以外は殆ど二次林らしい。

空師がどんな素晴らしい仕事をしたか判らないが、本筋としては淘汰されているんで、ヨーロッパ発祥のアーボリストの道具だけ取り寄せて「空師」だって言うのもどうかと思う。だったらメットも被らず荒縄でアクロバティックな仕事をすれば良いと思う。少なくともチェンソー使ってないし、空師なら斧でヤレよ。
自分の都合の良い部分だけ根拠無く組み合わせて空師とか言うなよ。
空師に失礼だよ。


葛飾北斎 富嶽百景
遠江山中の不二

この浮世絵のモチーフに
なってるのが空師だと思う。
逆さまで幹を股に挟んで、
荒縄の命綱でぶら下がって
斧を振るってる。

実に男らしい軽業師!

そういう命がけの軽業、命を省みない空師。どうだコノヤロ見たかスゲェだろ的な。
確かに凄い。
こんな事が出来るのは空師しか居ないと思う。
でも、それは作業手法に過ぎないし、特殊伐採かもしれない。

明治時代になり、代々木のただの原っぱっていうか湿地に150年後の将来を見越して、「昔ここに存在した森林を再現する事が出来れば、人の手を介さなくても維持できる森が再現できるだろう」って二次林の森を理想の森として、年月をかけ本来の自然の力で森に成るだろうって植栽された永遠の杜設計図が有る。


「御境内林苑計画」
国立博物館に行くと一部が閲覧できる。

林苑ノ創設ヨリ最後ノ林相ニ
イタルマデノ遷移ノ順序
150年後の変化のロードマップを
予め予想し、手入れし、
理想の林相に年数を経て次第に変移する
ように植栽計画を定める。

空師が淘汰され居なくなって、
賢く手入れが出来ないという事実も有るが、
そういう何世代も先の
自然を想定した森の作業。
これがツリーワークだと思う。
邪魔だから伐ってくれとか、手入れしてないから勝手に伸びてしまったみたいに思ってるけど、ただそこに住む人の都合や、周囲の人からの要望で、人間の都合で、生き物の息の根を止めるのがツリーワークではない。
よく仕事の依頼は、緑地からはみ出して枝が伸びてるから、オレの土地へはみ出してるから、管理する事が管理者の使命だろ!的な依頼が多いけど、風を弱めるとか、陽当たりを抑制するとか、きっとその木からも何かしらの恩恵も受けていたはずだと思う。それを予想して、自然をリスペクトして、自然と互いに良い関係を保ちながら、ここに長く住まう事に妥協点を見つけながら提案できるのがツリーワークの醍醐味だと思う。
邪魔だから伐ってくれって言われても、剪定って方法も有りますよ。ってその事実だけでは計れない何かを伝える事は出来ることもある。たとえそれを受け入れられなくても。
マイナスをプラスにできる。
しかし多くの行政の依頼は、苦情が来たので何とかするって言う入札になる。
これはマイナスがゼロにしかならない。
施工した直ぐその後から、またマイナスに向う。客と話も出来ないんではどうしようもない。そんな時は色んなプラクティスをしながら自分の知識の肥やしにする。

言われたから、時間かけたら儲からないから、手っ取り早く片付ける。どうだこのヤロ!って木を登って、伐るだけのヤツは、そのうちしっぺ返しが来ると思うよ。
クワバラクワバラ。

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