2020年5月20日水曜日

ランヤード考

私はワークポジショニングとして ART のポジショナー2が大好きだ。ここ5年ほど変わってない。ひとつの道具をこれまで愛し続けているのは珍しい。って言うかその他にも最新の道具や革新的なギアを試したものの、結局ココに落ち着く。
これは優れたギアと言うよりも、私の樹上の行動や作業姿勢にピッタリ合っていると思うだけで、しかし見方を変えれば、考え方が進歩していないから?かもしれない...

私はツリーワークを始めた当初、ランヤードは単に「落ちないため」みたいなザックリとし過ぎたスタンスだった。今考えると、落ちない!と思っていたのは、何だったんだろう?この道具を使えば落ちないなんてことは一切ない。ある人がイイ!と言っても、自分には合って無いかもしれないし、道具には条件や状態やコンポーネントの組み合わせがあるから絶対は無い。使われ方によっては落ちるよ!


一番最初は、
グリグリでイイんじゃね、
っと思っていた。
一番手頃だったし
汎用性が高く
ビレイ器で十分だよ。

何〜にも知らなかった。
迂闊でした。バカでした。
そもそもグリグリとグリヨンは、バネが入っているか?いないか?だけの違いでしょ、って思ていて、その使い方や考え方の差も判らず、単にロープを取り替えやすいとか、値段とか、レバーが付いてるとかいないとかで考えていた。

そこで私のお師匠さんに「グリグリとグリヨンの違いって何?」って聞いたら、師匠はニヤッと笑って、使ってみろよ。ってグリヨンを貸してくれた。
???だらけで、使ってみると...今までグリグリでそんなものだろ!って思っていた作業姿勢がモノ凄くシックリくる。
グリヨンを知る以前と、知ってからの以後では、全く別物になった。正直驚いた。まさにブレイクスルーだ。バカの壁を乗り越えた瞬間を今でも忘れていない。初めて自転車に乗れたガキの頃を思い出した。
そこで初めて気がついたんだけど、ビレイ器とワークポジショニングの違いって、スゲェ大事じゃん。今まで何を考えていたんだろう?

ビレイ器は、その名の通りビレイする道具だ。弛みを解消してバックアップしながら、いざという時は落下を停止させる。
スタティック系を使っている上では、ショックロードが起こった時に、ロープが少しズルッと出ないことには、フォースがそのまま身体に伝わる。ってことはより衝撃がデカい。だからその衝撃を吸収するために、ズルッと出る。
一方グリヨンは、荷重が載ると瞬時にカムが効いて動きが止まる。ロープが出ないから、安定する。しかし、リードクライミングなんかでビレイで使うと、リターンスプリングが無いからガツンと直ぐ止まる、スタティックなら危ないぜ。そしてロープを繰り出し難い。ってことはビレイには使えないゼ。EN規格ってこうやって分かれてるんな。

ワークポジショニングは、作業姿勢を制御する目的で、瞬間に止まってくれた方が都合がいい。これは良い位置だって姿勢を作ってから荷重を載せると、ズルッと行かれてはアンバイが良くない。そんなことすら気がつかなかったアホ加減で自分がイヤになった。

そしてグリヨンを手に入れた。


コイツはイイ!最高だ!
って随分使っていた。

確実に停まるし、安定する。
樹上でも怖くない。
これで自分も一流だ。
みたいに感じていた。

コレもまたバカの壁だった。
まあその他にも、ロープグラブやギブスやプルージックなんかでランヤードとして販売されてる違うヤツを使ってる人がいたら、直ぐに「貸して〜」って言って使わせてもらったんだけど、今イチシックリ来ない。って言うか使い難い。
「どうしてソレを使ってるの?」って聞くと、大概「ン?」って顔をされて、その疑問の意味すら判ってない感じ。確かにグリヨンはその当時は同様のものと比べ少し高かった。それよっか、ワイヤー入りの方が安全だとか、ランヤードなんかコレで十分だろって、ワークポジショニングとして一発で作業姿勢を決めるコトには興味ない感じでした。

そういう人を見ていると、登ってから何度もいい案配になるために、デバイスを少しずついじってポジションを決めている。確かに良いポジションを決めることは重要で、そこに時間がかかってもしょうがないが、モチャモチャやっている。しかもチェンソーを構える前に1つのポジションで安定しちゃって、他の姿勢をとる時にまた同じ作業を繰り返す。ポジショニングは、セットも、受けも、追いも、逃げも違うからね。樹上のポジションでその都度4〜5倍以上の時間がかかる。その時間が惜しくないのかな?一発で姿勢が決まったら仕事も速いんじゃないのかな?って思っていた。ソコを数千円ケチることで、数十万円の儲けを無駄にしてると思う。


これはギブスの
メカニカルプルージック。

コイツもそれなりの場面では
ソレなりの良い仕事は
するんだけど、
ランヤードとしては
どうかね?

コレはグラブじゃないけど
グラブ的なヤツ。
ロープクランプだね。

私はランヤードとして
グラブは嫌いなので、
使わないけど、
その他の作業で、例えば
倍力組んだりする時は
頗る調子が良い。
適材適所!
しばらくはグリヨン最高〜!って思っていたが、しか〜し、実際に経験を積むとちょっとうっとうしくなってきた。確かにグリヨンは安定する、しっかり停まる。でも長さ調節する時に、ロープを繰り出すのが鬱陶しい。確実に停まるからキツい。って思い始めた。

私はレクリエーション出身なので、ブレイクス大好きで、ブレイクスは確実にロープ上に停まってくれる。ロープ上にジッとしている分にはスコブル安定する。でも作業やレスキューを考えた時、コイツは逆に使いづらいぞって事を感じ始め、ヒッチコードを使い出してからは、コレはロープ上を動くための結びだ。ってことに気がつき、普段ズルズルでも、いざ効かせたい時にシュっと噛む、そいういヤツだ。動くためのバルドタントレッセだし、クヌートやシュワビッシュだって使われる所を意識して使い分ける。
そしてそのヒッチコードのレッグの長さがとても重要だ、と言うことに気がつき、でも売ってるのは決まった長さだし、チビの小デブにはピッタリのサイズが無いよ〜ってことで、ピッタリサイズを作るために、ハンドスプライスを覚えた。 そしてこの頃には、ユルユルのシステム(多分ディスティルだったかな?)を使って、セカンガリシステム的なランヤードも並行して使うようになっていた。

コレは常用している
2ndシステムランヤード。
カラビナもフィックス
しちゃって使ってる。
グラブは最初から持ってない。

地上で作業工程を読んで
フリップライン合わせて
3本くらい持って行くかな?
それから、CEランヤードってのが有ったけど、自慢げに「CEだぞ!」とか言われても、アレは多分ヒッチコードを使った製品でもCEが取れる!どうだ!ってメーカーが自慢したかっただけの製品だと思う。2014年にはENの規格としてヒッチコードが認められたからね。そのためのメーカーの意地だったんじゃないかな?ゲンにもう無いよね。そういう思惑に振り回されて、高っかいのを買ったりしたくないね。
前に使い古しのロープと手持ちのプーリーとハンドスプライスしたヒッチコードで「CEランヤードを作った」って人もいたけど、コンポーネントの試験を3σでやったのか?って、第一ハンドスプライスはCE通らないよ。売ってる製品のカタチだけマネして、これで安心みたいな人って、全然トンチンカンチンな道具揃えて、CEだ!って言われても、頭の中がCE通ってませんから。残念!

そうこうしているうちに、また別の師匠が、ポジショナーを持ってきた現場があり、いつもながら「ソレ貸して〜」って使わせてもらった。
そしたら、なんだこの感じは?ってぐらい違った。
ロープのヌケが気持ちイイ!恐ろしくズルズルだ。
今の時点でオレの求めていたランヤードはこれだ!っとばかり、速攻ポチった。そしてスイベル付きの2にした。

ARTって変態道具が多く、しかも高い。そしていわゆるEXPERT USE ONLYだと思う。っていうか最初は慣れないと怖い。初心者にはお勧めしないけど、ポジショニングで気になる動作を理解している人には、超お勧め。でもそのプロダクトデザインの精神は素晴らしい。高いだけの理由がある。プロ意識をくすぐる。
講習なんかでコレ使ってミって渡すと、大概怖いと言われる。そういう人にはグリヨンをお勧めしている。全然フィールが違うってことに気がつく人はイイけど、自分のランヤードを持ってきて、私はコレがあるからコレを使いますって人は、ランヤードの効果の違いすら意識してないから、ある物一本、That's All。
何本も買えないからって人には、費用の関係で2ndシステムもアリだよ、って教えてあげる。ランヤードは使ってみないと、その機能や良さがなかなか伝わらない。自分で「今」何を求めてるかによって、デバイスも変わってくる。適材適所は当たり前。仕事の種類だけ有ってもイイと思うほど。2ndシステムなら、長さとかマイナーアクシスを気にしさえすれば色々変えられるし汎用性が高いからね。


コレが今のところ一番好き。
仕事でロープ忘れても
コイツはわすれない。

ロープも色々試して
KM III→タクヨン→
ダイナミック→HTP→
タクヨン→カーンマスター
ティンディル→
今はドレナライン。
ポジショナーって簡単なテコなんだよな。ロープの径がシビアで、好みのラインを見つけるのが面倒だけど、これだってのを見つけたら、もう最高の武器。コレ無しには戦えない。今のドレナラインは試用期間。さらに最近はループプルージックとか、逆末端にパーフェクトOのピンビナとか着けてる。

っとこれまで、随分いろんなヤツを使ってきたけど、自分の一番好きは有るけど、作業の計画でグリヨンもグラブもギブスもロープクランプも2ndシステムもフリップラインも現場で全部使い分ける。使わなくなったモノは無い。ひとつとして無駄なものは無い、
1本にこだわるのもイイけど、買った道具に自分のやり方を合わせるのはダメだと思う。PPEはその名の通り、個人保護具だからね。色々使って自分に合ったものを選択した方が良いヨ。講習はそういう道具選びの意味もある。使ってみないと。だから1回受講しただけで判らない。だから何度でも受講してくれる人も居る。その時の自分のレベルが重要で、そこから進歩したならその時に合った方法や道具を選ぶべきですよ。特にランヤードは個人の登り方や、行う作業で、随分違う。1本あれば全てマカタするものじゃないですよ。

あと、長さ問題ね。
ランヤードの長さって「何mが良いですか?」って聞かれることが多い。でもそんなことアドバイスできないね。私は「あなたは何がしたいの?」って聞き返すと、全てを網羅するモノが欲しいみたいなことを言われることが多く、でもそんなモノは無いよ。作業は1つじゃないし、そんな都合いいものは無い。その為に学んで臨機応変に道具を使い分けるんだよ。ナンバーワンは有ってもパーフェクトは無いよ。
だから始めは安定させるモノで、姿勢制御の意味が判ってきたら、徐々に違う長さやデバイスを使ってみた方が良い。そうして行けば徐々にスキルアップできるよ。決してソレまで使っていたものは無駄にならないから、色々買い足すと良い。でも所詮消耗品だからね。って言うようにしている。
ランヤードは高いけど、最大の武器だから。最近流行の登るSRSデバイスなんかにカネかけるなら、ランヤードを充実させた方がよっぽど仕事に活かせるから。

仲間内では、その人に合ってるな!って思ったら、ポジショナー2をお勧めしてるんだけど、中にはスッゲェ良い!最高!って言って、コレで格段に仕事が速くなった人がいる。そしてしばらく使い続けて、そいつはもう最高過ぎて、更に追加してポジショナー2を2丁使いだからね。そこまでするこたぁ無いと思うけど、両側のサイドDに1個づつ付いてるからね。カッコいい!
劇的に作業が早くなって、オレ登るの巧くなった!って喜んでいる。決して登るのは関係ないけどね。

それから、結構重要なのが、マイナーアクシス問題ね。
ランヤードに使うコネクタってどうしてる?
マイロンにすりゃイイけどその都度外したり着けたりする固定具を使うの面倒だし、私は全てカラビナフィックス。
気がつくとデバイスの所でマイナーになってることが多いから、今使ってるランヤード用のコネクタは全てイチイチ外さない専用にしてるね。全部フィックス。専用にしてるけど、使う前は毎回チェックね。マイナーアクシス怖いモン。その辺意識無い人も多いね。
自分でシビアな作業していて、キッツい姿勢って時に限ってハッと気がつくとマイナーになってること多いよね。そして今ひっくり返ったら...想像したくないモンね。
反対側って言うか、ターミネーションは、スナップフックやカラビナの場合はキャプティブ系ね。自分でアイ加工出来なくても最近はワイヤーアイとかピン付きのものが有るからイイね。これもマスト。

そしてそのカラビナをメジャーアクシスに固定する器具。DMM WallisやPetzl Captivその他ゴムの栓って感じのもなんか色々あるけど、直ぐキレちゃったり、デバイスを選んだり、なかなかピッタリのモノはない。

私はBeal Pinchを使ってる。
赤いヤツ。

コレは耐久性もあるし、
デバイスを選ばない。
結構スグレものだね。
着けるときキッツいけど、
キツくないと意味ないからね。
Beal Pinch最高!
昔こういう固定具を使わず、カラビナもその都度外してランヤードにしていた人がいたけど、その人は使うたびにカラビナコネクトの所をビニールテープでグルグル巻きにしていた。ソレを見たとき、コレはこれでアリだな。カッコいいなと思った。
イイ道具を使えるの人はイイけど、使えなくてもマイナーアクシスはイヤだなって、全く真っ当な考え方だよね。
何処ぞのお金持ち農家のように、次から次へと新しい最先端のデバイス買って見せびらかすような輩とは違う。


メインで使ってる最大の武器である
ポジショナー2だけど
フリップラインもセカンダリも使ってる。

そして最近は、マッドロックのセーフガード
こいつがスコブル好き。
でもまだ検証段階だけどね。

ICoPの、2.11.6.10 でロープ径も
10mm以上って項目が有るんで
オーシャン10mmも問題なし。
Treetoolでもこのセーフガードを
検証しているみたいで、
結果に期待しよう。
何をやってもPPEは自分の保護具だから良いけど、道具を何とかするんじゃなく、自分に合ったセッティングや、コンビネーションを探すことが愉しいと思うな。そして自分の危険をどう回避するか?が重要で、道具ばっかり買っても、自分の効率も危険回避も担保できないよ。残念!

とまあ、SARSコビッド19の影響で、調べ物や懸案だったトライや、家で登って検証や、ベタープラクティスをしてるんだけど、気になることが起きると、時間が自由になるからこうやって勝手なことを書いてます。
勝手な考えだからね。
状態や条件も知らずに、最先端の道具情報だけに踊らされず、自分で考えてね。
EXPERT USE ONLY ですよ。[ Extreme ]じゃないからね。

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