2020年12月8日火曜日

臥薪嘗胆

先日クルミの枝剪定を行った。
ただ剪定するだけなら楽だけど、梢側には絡まったコクワのツルが巻き付いているので、まずカズラを外さないと降ろせない。
推定30kgくらいの枝でも、手でちぎれるくらいの細いツルがエネルギーを相殺してしまうので、外れない。この地味な作業が意外に大変で、近くに寄れないし、もう大丈夫って思っても、とんでもない方向からツルが伸びていて、元々スタティックリギングのタスクでスローラインを投げてチップと元口バットでロードトランスファーにしようと思って外したら、全然降りない。何処かで突っ張ったカズラが利いてる。
非常に苦労したんだが、降りると思っておりないのはガッカリだぜ。

そんなタスクで一緒に作業していたチームメンバーが、シリウス14mmを新調し、そこまで必要無かったが、デカくイケるぜ!ってな具合いに使ってみた。
リギング中はモノ凄く慎重にチェックして、いろんな方向から確認してタスクを遂行するが、山場を過ぎてホットすると事故る。気が抜けてテキトーになる。
やっぱり新品のロープはイイねって気持ちよく作業をしていたが、幾つかタスクをこなしているうちに、降ろした枝を玉切りしている時にロープを切ってしまった!



シリウスブルロープ14mm
11,680lbf / 5,200daN
でもこれはもうそんな強度は無い。

降ろした後にノットは解いていたが、
荷重してなかったフリー状態のロープが、
ツルが絡んだ小枝と一緒に跳ねて、
末端が一緒に目の前に飛んできて、
フル回転のブレードに当たってしまった!
ほんの一瞬かすっただけでもこの有様。
ギョエ〜、やっちまった。

タスク中では無いものの
ロープを切ってしまった
心理的ショックの方が大きい。
普段から「絶対に吊られたままで切り始めてはいけません」なんて言ってたかが、荷重が載ってなくてもフリーの末端は暴れる可能性がある。ましてツル作業ならその可能性は充分に予見できたのに、アマく考えていた。
邪魔な枝とツルをチョンチョン切っていたら、転がった小枝にツルが絡んでいた。
跳ねた枝と一緒にフリーになったロープの末端が目の前に飛び込んできた。
普段はそんな事しないのに、不可抗力で飛んできたら困るよ〜。
なんてただの良い訳で、ダメな作業はダメ。
普段ヤラ無いことが起きたっていうことは、基本がダメ作業だったってこと。
ダメなミスが何処かにあったから、そのミスが事故を誘発した。
今までがたまたま偶然巧くいっていただけかもしれない。

テンションの抜けたロープはちゃんと再び上げておくべきだった。次のタスクはスローラインのチップなんで、リギングロープを降ろしたままで玉切りする時は、ロープ末端を何処かに引っ掛けて外れないようにするべきだった。
結果として自分がショボかっただけなんで、その根拠や原因を判っていた。でもそれをやらなかった。

私はミスを見せた方が、自分がたいしたことない人だって思われた方が、チームは良い仕事に繋がると思ってる。ミスをしない大門未知子みたいな人はドラマの中にしか存在しない。エンターテインメントってか、そう有りたいっていうファンタジーだから。仕事をミス無いように完遂するためには、そこでカッコ付けても始まらない。カッコ悪い所を見てもらって、自分のミスを共有して、戒めた方がよほど有効だと思う。アイツの犯したミスを俺だけはやらないようにしようとか、気をつけようっていう意識が芽生える。
事故は細かい些細なミスの積み重ねで起こるんだから、そういうミスを毎回見て、小さく細かいカッコ悪い所を見せた方が大きな事故に繋がらないと思う。

中にはミスを隠す人が居る。失敗や間違いを無かったことにする。
これがどれだけ危険な思想か判ってない。
事後対策だけ立派にしても、そのミスが無くなる方向には向かない。

例えば、ミスを報告すると入札に参加できなくなるとか、出入り禁止になったら仕事が立ち行かなくなる可能性もある。だから作業員に幾ばくなのカネを持たせて無かったことにする。作業員は一時的に掴んだ見舞金が自分の予想より多かったりすると、自分のミスで会社にも迷惑かけたんだし、事実を隠すことに疑問を持たない。こんなにカネをくれて、ありがたい会社だとか思ったりする。
そしてもう二度とミスを犯さないよう心に堅く誓ったりする。

まさにツームストーンセーフティだ。

そのミスの原因究明や、どうしてミスに繋がったかを考えず調べず根本を有耶無耶にしてもう二度とミスを犯さないって自戒するし、ミスを発覚させれば自分の評価にも繋がるので、ひた隠す。会社もひた隠す。

もしバレちゃったら、入札に参加できなくなるので、別法人を立ち上げたりして、法人格が変われば入札に参加できるっていう社会のシステム自体も何ら変わらない。
結局大きな事故に繋がるまで隠し通す。

そうやって安全でクリーンなエネルギーは水蒸気爆発を起こす所まで行く。
起こった事実を隠し通せなくなるまで隠す。
でもその事故を誘発した責任者は有耶無耶になり、巨額な退職金を貰ってる。一方住人は未だ故郷へ帰れない。っていう事実をオカシイと思わない。

社会全体がそういうムラ意識っていうか社会構造を変えない限り、何も変わらない。

だから自分では、そのミスを蔑ろにしないで、毎回のそのミスを忘れないために、ミスを目に見える形で証拠を残して、絶えず危険回避を心がける。

事故を起こした人は、切断された自分のハーネスとかロープを毎日見える所にぶら下げて臥薪嘗胆するべきだ。
会社なら作業開始前のミーティングで、その事故の象徴に対して誓うべきだ。

そういう気持ちを忘れない為に、私は道具小屋の一番良く見える所に、こういうミスを犯した破片というか、バタフライノットで切り取られたロープがぶら下がっている。
そういうミスを再びおかさない為にワザと見える所にぶら下げている。
またコレクションがひとつ増えてしまった。

まだ新品の50mロープだったからもちろん弁償したが、精神的にヤラれた。
交換した14mmロープは、テンションが抜けてたから再利用可能だが、10mくらい短くなってしまう。しょうがない。
幾ら新品同様のロープだって、弾けたストランドをビニールテープで巻いて見えなくして誤摩化すなんて言語道断なんで、潔く切る。切り離す。
こんな脆い物に命を預けているっていう事実を知っておく必要もある。
数万円をケチって使い続けるなんて自分やチームの命の値段だと思えば安いもんだ。
自分のミスの値段だから数万円で良い勉強をさせてもらったって思うようにしている。
こういうミスが細かいミスが積み重なると、事故を招くんだよなぁ。
歳を重ねるとミスが多くなるな。
もうそろそろ作業を行うのは限界かな?
そういう気持ちを忘れない。

人は必ずミスをする。慣れた頃にミスをする。
偶然起きた事故なんて無いんだ!
その事故は必然なんだ!
普段余り使わない14mmは強烈な臥薪嘗胆になった。

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